ビートシート
別表記: beat sheet, ビート表, 箱書き, プロット表, ストーリービート
ビートシートは、物語の出来事を1行ずつ順番に並べた一覧です。ページ割りやコマ割りの前に書き、何がどの順で起きるかを先に確定させることで、構成の穴を完成原稿ではなくリスト上で見つけられるようにします。
1ビート=1つの変化
「ビート」は曖昧に使われがちなので定義を固めておきます。ビートとは、物語の状態が1つ変わること です。誰かが何かを知る、決める、失う、あるいは状況のほうが動く。シートの2行の間で何も変わって いないなら、片方はビートではありません。ビートの顔をした場面説明です。
この定義にしておくと、シートが点検可能になります。変化の一覧なら上から順に読んで、各行で 「これは上の行と違うか」「上の行から導かれているか」を確かめるだけで済みます。構成の欠陥は、 同じビートが3行続いている箇所か、何の原因もなく現れるビートとして表に出てきます。
工程のどこに入るか
日本のマンガ制作でいえば、プロットとネームの間です。
- 設定・企画 — 1〜2文。誰が何を求めていて、何が邪魔をしているか。
- ビートシート — 1話あたり15〜40行。文章だけで、コマもセリフもページ番号も書かない。
- 脚本 — ビートをページとコマに割り、セリフを入れたもの。
- ネーム — ページとして設計されたもの。
各段階のやり直しコストは、前の段階のおおよそ10倍です。順番どおりにやる理由はそれだけで十分で、 ビートの書き直しは1行分ですが、ネームまで進んだ後に同じ判断をやり直すと1日消えます。
小説より必要になる理由
小説家は書きながら物語を発見し、後から章ごと切ることができます。マンガはできません。高い のは絵で、しかも絵は文章の後に作られるからです。中盤を差し替える必要が判明するのは、段落を 消すのではなくページを描き直すということです。
さらにマンガには小説にない構造的制約があります——読者が受け取る単位です。連載の各話には、 来週も読みに来させる終わり方が要ります。しかも毎話に要ります。ビートを並べておけば、4話が 肩透かしで終わっていることが一目で分かります。話の切れ目を入れてシートを組み、各話の最終 ビートだけを縦に読んでみてください。その列が継続率です。
使えるシートの書き方
1行は短く具体的に、現在形で、誰が何をするかを書きます。ミラが手紙を見つける。 兄に嘘を つく。 兄が確かめて嘘に気づく。 形容詞とセリフは避けます。どちらも後で決めることで、ここ に書くとビートシートは静かに出来の悪い初稿に変わります。
次に進む前の点検は2つで足ります。
- 因果。 隣り合う2つのビートの間には「だから」か「しかし」が入るはずです。「そして」しか 入らないシートは、出来事の並びであって物語ではありません。
- 欲求。 すべてのビートは主人公が求めているものに触れているはずです。触れていないビートは、 話が長くなったときに最初に削る候補です——そして必ず長くなります。
読み切りならシートは1枚に収め、脚本を1行も書く前にビート数をページ 数と突き合わせてください。20ページの読み切りに40ビートは入りません。全部が半ページになります。
関連用語
- 脚本(シナリオ) — コミックの脚本とは、絵にするための設計文書です。物語をページ番号とコマ番号に分解し、各コマに何が写るかを記述し、そこに入るセリフ・ナレーション・効果音を列挙します。
- 絵コンテ — 絵コンテとは、仕上げ作画に入る前にショット・演出・尺をラフな絵で設計する工程です。もとは映像の用語で、一枚が一カットにあたります。マンガで同じ役割を担うのはネームで、単位はカットではなくページになります。
- ネーム — ネームとは、仕上げ作画の前にコマ割りと読みの流れを検証するための、ページのラフ設計図です。コマの形、おおまかな人物、実寸のセリフをページ単位で置きます。英語ではこの工程を thumbnail と呼びます。
- 読み切り — 読み切りは、前後の話を持たない1回完結のマンガです。日本の雑誌では新人と新企画の審査を兼ねており、その設定とキャストが連載を支えられるかを、連載を始める前に読者の反応で測る仕組みになっています。