脚本(シナリオ)

別表記: シナリオ, コミックスクリプト, 原作(脚本形式), script

コミックの脚本とは、絵にするための設計文書です。物語をページ番号とコマ番号に分解し、各コマに何が写るかを記述し、そこに入るセリフ・ナレーション・効果音を列挙します。

日本のマンガでは、この工程がよく省かれる

個人で描く作家の多くは、プロットから直接ネームに入ります。絵で考える ほうが速いし、コマ割りとセリフ量を同時に決められるからです。脚本が独立した文書として存在するのは、 原作付きの連載、分業体制のスタジオ、あるいは描き手と書き手が同じ部屋にいない場合です。

つまり脚本は「正しい手順」ではなく、分業のための契約書だと考えるほうが実態に合います。誰が コマ割りの責任を持つのかを紙の上で決める道具です。そしてAI生成のワークフローは、定義上この 分業型にあたります。

脚本に実際に書かれるもの

業界共通の書式はありませんが、実務の脚本は同じ要素に収束します。

  • ページ番号、その中のコマ番号。単位はページです。ページの切れ目とめくりが構造そのものだから。
  • コマ内容 — 読者に何が見えるか。画面の寄り引き、誰がいるか、何をしているか、前のコマから何が 変わったか。
  • セリフ — 話者名を付け、読み順に並べる。
  • ナレーションと**効果音** — 写植と描き文字で扱いが分かれるので、 どちらかを明記する。
  • 必要に応じてカメラ指定。あおり、手元に寄る、状況説明のカット

絵にできない記述は記述ではありません。「彼女は何年も騙されていたと悟る」は思考であって、 コマではない。「カップに伸ばした手が途中で止まる」がコマです。判定基準は、プロットを読んでいない 作画者がその段落だけで描けるかどうかです。

フルスクリプト方式とマーベル方式

フルスクリプト方式は作画前に全コマを確定させます。4ページ目が何コマで各コマに何が写るかを 書き手が決め、作画者はそれに沿って描く。欧米コミックスの標準で、書き手と作画者が離れているとき ──つまりほとんどの場合──に機能します。代わりに構造的リスクは全部書き手に乗ります。描かずに コマ数を数えなければならないからです。

マーベル方式は、その話の梗概──1ページのこともあれば1段落のことも──を渡し、コマ割りと テンポは作画者に任せます。書き手は上がった絵にセリフを乗せる。ページを理解している人間が ページを設計するので絵のテンポは良くなり、代わりに整合性が壊れます。筋が尺に収まるかを誰も 数えていないからです。1960年代のマーベル編集部は、この方式でフルスクリプトでは不可能な ページ数を出荷しました。

現在の共同作業はたいていその中間にあります。ビートとセリフは指定するが、コマの割り直しは 作画者に明示的に許可する形。どちらでいくのかは1ページ目の前に宣言してください。この二つは 「テンポの所有者は誰か」について意見が食い違っています。

工程上の位置

ビートシートの後、ネームの前です。 ビートシートなしに脚本を書くと、18ページ目で第二幕に転換がないことに気づきます。脚本なしに ネームを切ると、セリフの形をした穴を描いてから言葉が入ることを祈る羽目になります。

すぐ効く習慣が二つ:

  1. ページごとにコマ数を数える。 標準的なページなら5〜6コマが楽。9コマは密なグリッドで 短いセリフが必須。3コマは遅いので、それに見合う理由が要ります。
  2. セリフは最終的な長さで書く。 脚本段階で長すぎるセリフを通すと、写植の段階でコマの半分を 覆う吹き出しになって届きます。目安は印刷で1吹き出し50文字前後、スマホなら20〜30文字。

縦スクロール作品では「ページ」を「話」に置き換え、コマ番号は 通しで振ってください。めくりが存在しない形式に、めくり前提のビートを設計しても届きません。

関連用語

  • ビートシート — ビートシートは、物語の出来事を1行ずつ順番に並べた一覧です。ページ割りやコマ割りの前に書き、何がどの順で起きるかを先に確定させることで、構成の穴を完成原稿ではなくリスト上で見つけられるようにします。
  • ネーム — ネームとは、仕上げ作画の前にコマ割りと読みの流れを検証するための、ページのラフ設計図です。コマの形、おおまかな人物、実寸のセリフをページ単位で置きます。英語ではこの工程を thumbnail と呼びます。
  • 絵コンテ — 絵コンテとは、仕上げ作画に入る前にショット・演出・尺をラフな絵で設計する工程です。もとは映像の用語で、一枚が一カットにあたります。マンガで同じ役割を担うのはネームで、単位はカットではなくページになります。
  • コマ — コマとは、物語の一瞬を切り取った枠付きの一画のことです。枠が「その瞬間はここで終わる」と示し、コマの面積が読者の滞在時間を決め、コマの並びがそのまま時間の流れになります。
  • 吹き出し — 吹き出しとは、コマの中で人物が声に出したセリフを収める枠のことです。話者を指すしっぽが付き、読者はコマの読み順どおりに吹き出しを拾うため、置き場所がそのまま「誰が先に聞こえるか」を決めます。

実際に使う