マンガ・マンファ・ウェブトゥーン用語集
40 語。各項目はまず一文で答え、その後に詳細を置いています。分類するためではなく、実際に作る人のために書きました。
形式とメディア
各コミック文化の正式な呼び名と、その違い。
- ウェブコミック
- ウェブコミックとは、紙ではなくウェブ上で発表されるマンガ全般のことです。形式ではなく発表の場を指す語なので、三コマのギャグ、紙と同じページ組み、縦スクロールのいずれもウェブコミックであり、多くは描き手自身による自主発表です。
- ウェブトゥーン
- ウェブトゥーンは、ページをめくるのではなくスマートフォンを縦にスクロールして読むことを前提に、一本の連続した縦長の帯として描かれるデジタルコミックです。韓国で生まれ、現在は世界中で使われています。
- マンファ
- マンファ(manhwa)は韓国語でコミック全般を指す語ですが、日本や英語圏では韓国の作品、とくにフルカラーで縦スクロールのウェブトゥーンを指して使われます。漫画とは色、読み方向、連載単位が違います。
- マンホア(中国漫画)
- マンホア(manhua)は中国語でコミックを指す語で、日本や英語圏では中国本土・香港・台湾の作品を指します。現在流通しているものの多くはフルカラー、左から右、アプリ上の縦スクロール連載です。
- 同人誌
- 同人誌は、商業出版の外で作られ、即売会などで作り手自身の手から直接売られる自費出版の本です。マンガとは限らず、小説、評論、画集も含みます。内容はオリジナル(創作)と二次創作の両方があります。
- 四コマ漫画
- 四コマ漫画とは、ほぼ同じ大きさの四つのコマを縦一列に積み、上から下へ読ませる形式です。四つの拍は起承転結に対応し、対立の解決ではなく読者の見え方が切り替わることで落ちがつきます。
- 漫画(manga)
- 日本語の漫画はコミック全般を指す普通の言葉ですが、英語の manga は「日本の様式で作られたコミック」という狭い意味しか持ちません。漫画・만화・漫畫は同じ二字を三か国語で読んだもので、語そのものには国も様式も含まれていません。
- 読み切り
- 読み切りは、前後の話を持たない1回完結のマンガです。日本の雑誌では新人と新企画の審査を兼ねており、その設定とキャストが連載を支えられるかを、連載を始める前に読者の反応で測る仕組みになっています。
ページと作画の技法
ページをどう構成し、どう描くかの語彙。
- エスタブリッシングショット
- エスタブリッシングショットは、場面の場所と人物の配置を示す引きのコマです。寄りに入る前にこれを置かないと、読者は続く寄りのコマを一つの空間に並べられなくなります。
- コマ
- コマとは、物語の一瞬を切り取った枠付きの一画のことです。枠が「その瞬間はここで終わる」と示し、コマの面積が読者の滞在時間を決め、コマの並びがそのまま時間の流れになります。
- コマ間の転換
- コマ間の転換とは、あるコマから次のコマへ渡るときに時間・空間・被写体がどれだけ動くかという関係のことです。スコット・マクラウドは瞬間・動作・主体・場面・側面・無関係の六種に分類しました。
- スクリーントーン
- スクリーントーンとは、白黒原稿に貼って中間調を作るための、網点・線・グラデーションが印刷済みのシートのことです。元はカッターで切って貼り込む粘着フィルムでしたが、現在はほぼデジタルのトーンレイヤーとして扱われます。
- ペン入れ
- ペン入れは、下描きを消えない黒い線で引き直す工程です。どの輪郭を線にするか、線をどれだけ太くするか、どこをベタで潰すかを決めるのがペン入れで、ページの奥行きとコントラストはここで決まります。
- 下塗り(フラット)
- 下塗りは、コマの中の各領域をムラのないベタ一色で塗り分ける着色工程です。影も光も付けません。こうしておくと後の仕上げで、どの領域も自動選択のワンクリックで正確に選べるようになります。
- 効果線(流線・集中線)
- 効果線とは、動きを伝えたり視線を一点に集めたりするために引く線の集合です。被写体の後ろに並走する線は移動を、一点に収束する放射線は強調・驚き・衝撃を表します。前者が流線、後者が集中線です。
- 塗り足し(裁ち落とし)
- 塗り足しは、仕上がり線の外側まで絵を伸ばしておく余白のことです。断裁位置は数ミリずれるため、仕上がり線ぴったりで絵を止めると紙の端に白が出ます。日本の原稿用紙では仕上がり枠の外に3mm前後の塗り足し幅が取られています。
- 扉絵・見開き
- 1ページ全体を一コマで使う見せ方のことです。一つの瞬間にページを丸ごと払うため、話の扉、初登場、場面で最も大きいビート──つまり読者の足を止めたい箇所にだけ使われます。二ページに広げたものが見開きです。
- 線の強弱
- 線の強弱は、1枚の絵の中で線の太さを意図的に変えることです。太い線は手前に出て影や重さとして読まれ、細い線は奥へ引いて光や繊細さとして読まれます。色も影もない線画が奥行きを持つのはこの仕組みによります。
- 縦スクロール
- 縦スクロールとは、ページをめくらずにスマートフォンを下へスクロールして読む、一本の縦長の連続した紙面として組まれた形式です。ウェブトゥーンの標準形で、コマとコマのあいだの空白がテンポを決めます。
- 間白(ガター)
- 間白は、コマとコマの間の空白です。読者はその空白で2つの絵の間に何が起きたかを補完するため、間白の広さがそのまま飛ばした時間の量と、一拍をどれだけ持たせるかを決めます。
写植と効果音
吹き出し、キャプション、効果音 — コミックの文字レイヤー。
- オノマトペ(擬音語・擬態語)
- オノマトペは音や状態を音声で写し取る言葉です。日本語は実際の音を表す擬音語に加え、音のしない状態や質感を表す擬態語を持ち、しーんのように無音までも書けます。この層が英語には存在しません。
- キャプションボックス
- キャプションボックスは、吹き出しとは別に置かれる文字の枠で、ナレーション、心内語、場所と時刻の表示を載せます。コマの中の誰も声に出していないため、しっぽは付きません。日本のマンガでは枠で囲まず地の文として置くことも多い要素です。
- 効果音(描き文字)
- 効果音とは、吹き出しの外に置かれる音の文字表現と、それを作る制作工程を指す言葉です。マンガでは作画と同時にペンで描き込まれるため描き文字と呼ばれ、写植で組まれるセリフとは扱いが根本的に違います。
- 吹き出し
- 吹き出しとは、コマの中で人物が声に出したセリフを収める枠のことです。話者を指すしっぽが付き、読者はコマの読み順どおりに吹き出しを拾うため、置き場所がそのまま「誰が先に聞こえるか」を決めます。
- 吹き出しのしっぽ
- しっぽは、吹き出しから話し手に向かって伸びる尖った部分で、そのセリフが誰のものかを指定する唯一の要素です。しっぽが別人を指していると、読者は疑わずにその人物のセリフとして読み進めます。
- 思考の吹き出し
- 思考の吹き出しとは、声に出していない心の中の言葉を入れる、雲形の輪郭を持つ枠のことです。話者とは尖ったしっぽではなく、小さくなっていく丸の連なりでつながります。マンガでは雲形を使わず枠なしの文字で処理するのが普通です。
ジャンルと型
読者が次に読むものを探すときに使うジャンル名。
- バラ(ゲイコミ)
- バラは、ゲイ男性の作り手がゲイ男性の読者に向けて描く日本のゲイ漫画を指して英語圏で使われる呼び名です。国内では「ゲイコミ」と呼ぶほうが一般的で、女性の作り手と読者を中心に育ったBLとは出自も読者層も異なります。
- ムリム(武林)
- ムリム(무림)は韓国の武術小説・マンファが舞台とする武の世界です。門派と世家と流浪の武人が、一般社会と並行してそれ自身の掟と序列を持つ社会を作っています。武林の韓国語読みで、その世界とジャンルの両方を指します。
- 回帰もの
- 回帰ものとは、主人公が死ぬか決定的に失敗したのち、同じ世界・同じ肉体のまま人生の過去の一点で目を覚まし、生き切った未来の記憶をすべて保持したまま人生をやり直す物語類型です。韓国のマンファで主流になりました。
- 女性漫画(josei)
- 女性漫画は、成人女性向け雑誌に掲載される漫画を指す読者層区分で、英語圏では josei と呼ばれます。仕事、お金、結婚、欲望を大人の視点から扱いますが、英語の書店では少女漫画と一括りにされがちです。
- 少女漫画
- 少女漫画とは、おおむね12〜18歳の女性読者向け雑誌に連載されるマンガを指す、出版上の読者区分です。題材ではなく読者層で決まる区分でありながら、この雑誌群がマンガ史上もっとも独自なページ文法を生み出しました。
- 少年漫画
- 少年漫画とはジャンルではなく出版上の読者区分で、おおむね12〜18歳の男性読者向け雑誌に載るマンガを指します。決めているのは内容ではなく掲載誌であり、少年誌はアクションもスポーツもギャグもホラーも恋愛も等しく載せます。
- 日常もの
- 日常ものとは、外部からの脅威ではなく、学校・仕事・食事・友人関係といった普段の生活から物語を取り出すジャンルです。葛藤は小さく個人的で、結末は世界ではなく関係のほうを少しだけ変えます。
- 異世界もの
- 異世界ものは、普通の人間が転移・転生・召喚によって元の世界から別の世界へ移され、そこで生きていく物語のジャンルです。移動そのものが物語の出発点であり、読者に世界の規則を説明する装置にもなっています。
- 青年漫画
- 青年漫画とは、おおむね18歳以上の男性読者向け雑誌に連載されるマンガを指す、出版上の読者区分です。少年漫画との差は過激さではなくテンポと倫理の確からしさにあり、青年誌は主人公が失敗したまま間違い続けることを許します。
制作工程
アイデアから完成ページまでの間にある書類と工程。
- キャラクター設定資料(キャラ表)
- キャラクター設定資料は、1人のキャラクターを複数の角度と複数の表情で描いた参照用の絵です。どのコマでも同じ人物として描けるようにするための基準で、三面図と表情集を中心に構成します。
- ネーム
- ネームとは、仕上げ作画の前にコマ割りと読みの流れを検証するための、ページのラフ設計図です。コマの形、おおまかな人物、実寸のセリフをページ単位で置きます。英語ではこの工程を thumbnail と呼びます。
- ビートシート
- ビートシートは、物語の出来事を1行ずつ順番に並べた一覧です。ページ割りやコマ割りの前に書き、何がどの順で起きるかを先に確定させることで、構成の穴を完成原稿ではなくリスト上で見つけられるようにします。
- 絵コンテ
- 絵コンテとは、仕上げ作画に入る前にショット・演出・尺をラフな絵で設計する工程です。もとは映像の用語で、一枚が一カットにあたります。マンガで同じ役割を担うのはネームで、単位はカットではなくページになります。
- 脚本(シナリオ)
- コミックの脚本とは、絵にするための設計文書です。物語をページ番号とコマ番号に分解し、各コマに何が写るかを記述し、そこに入るセリフ・ナレーション・効果音を列挙します。