バラ(ゲイコミ)
別表記: bara, 薔薇, ゲイコミ, ゲイ漫画, メンズラブ, bara manga
バラは、ゲイ男性の作り手がゲイ男性の読者に向けて描く日本のゲイ漫画を指して英語圏で使われる呼び名です。国内では「ゲイコミ」と呼ぶほうが一般的で、女性の作り手と読者を中心に育ったBLとは出自も読者層も異なります。
語源は『薔薇族』、ただし国内では使われない呼び方
「バラ」は薔薇から来ています。1971年創刊の『薔薇族』——日本で最初に商業流通したゲイ男性向け 雑誌——の誌名が、英語圏でいつの間にかジャンル名として一般化しました。
国内でこの呼称を使う人はほとんどいません。作り手も読者もゲイコミ、あるいは単にゲイ漫画と 呼びます。日本の作家の中には「bara」を古い呼び方、あるいは外から雑に付けられたラベルと感じる 人もいます。一誌の名前を分野全体の名前にしてしまった、という違和感です。分野について書くなら ゲイコミのほうが無難で、英語圏の検索に合わせるときだけ bara を使う、という使い分けになります。
BL・やおいとの線引き
どちらも男性同士の関係を描く漫画ですが、出てきた場所も向いている先も 違います。
- 誰が描くか。 ゲイコミの作り手は主にゲイ男性です。BL・やおいは主に女性の作り手によって 描かれ、少女漫画と同人誌の文化、つまり 女性漫画誌と同じ読者層の中から育ちました。
- 誰が読むか。 ゲイコミは『Badi』『G-men』のような会員制・定期購読の雑誌を通じて、ゲイ 男性の読者に向けて出されてきました。一般の漫画流通に乗る前提ではありません。
- 身体の描き方。 BLでは細身で若い美少年的な造形と、攻め/受けという対の構図が物語全体を 組み立てます。ゲイコミでは体重と筋肉と体毛のある成人男性が中心で、読者が自分をどう見ている かに近い描かれ方をします。
- 何の話か。 BLでは関係そのものが前提であり主題です。ゲイコミでは、ゲイであることは登場 人物の生活の当たり前の一部として置かれ、物語はその周りで起きます——仕事、加齢、住んでいる街。
三つ目の意味と、そこで起きている混乱
英語圏のイラスト界隈とAIのプロンプト界隈では、「bara」が体型を指す言葉に変わりました。 誰が描いたか、何の話かに関係なく、肩幅が広く胸板と手足の太い男性キャラの造形を指します。 作り手と読者という本来の意味からは完全に切り離された用法です。
これは実務上の問題でもあります。画像生成に「bara style」と入れて返ってくるのは体型だけで、 ジャンルもトーンも題材も動きません。欲しいのが絵なら絵の言葉で書くべきです——厚みのある体格、 成人男性の顔、太めの線。欲しいのがジャンルなら、それは誰の物語を 語るかという判断であって、スタイル指定の単語が代わりに決めてくれるものではありません。
関連用語
- 漫画(manga) — 日本語の漫画はコミック全般を指す普通の言葉ですが、英語の manga は「日本の様式で作られたコミック」という狭い意味しか持ちません。漫画・만화・漫畫は同じ二字を三か国語で読んだもので、語そのものには国も様式も含まれていません。
- 同人誌 — 同人誌は、商業出版の外で作られ、即売会などで作り手自身の手から直接売られる自費出版の本です。マンガとは限らず、小説、評論、画集も含みます。内容はオリジナル(創作)と二次創作の両方があります。
- 女性漫画(josei) — 女性漫画は、成人女性向け雑誌に掲載される漫画を指す読者層区分で、英語圏では josei と呼ばれます。仕事、お金、結婚、欲望を大人の視点から扱いますが、英語の書店では少女漫画と一括りにされがちです。
- 青年漫画 — 青年漫画とは、おおむね18歳以上の男性読者向け雑誌に連載されるマンガを指す、出版上の読者区分です。少年漫画との差は過激さではなくテンポと倫理の確からしさにあり、青年誌は主人公が失敗したまま間違い続けることを許します。