漫画(manga)
別表記: manga, 漫画, マンガ, Japanese comics
日本語の漫画はコミック全般を指す普通の言葉ですが、英語の manga は「日本の様式で作られたコミック」という狭い意味しか持ちません。漫画・만화・漫畫は同じ二字を三か国語で読んだもので、語そのものには国も様式も含まれていません。
日本語の「漫画」と英語の manga は同じ語ではない
日本語の漫画はコミック全般を指します。タンタンも漫画、ピーナッツも漫画です。ところが英語の manga はそうではありません。「日本で、日本の様式で作られたコミック」だけを指し、タンタンは comic、韓国の作品は manhwa、中国の作品は manhua と別の語が割り当てられます。日本語が 「漫画」1語と国名の組み合わせで済ませているものを、英語は3つの別単語で処理しているわけです。
この非対称は実務で効きます。海外向けに「manga」と書けば、日本産・モノクロ・右開き・週刊連載 という一式の期待が自動的に付いてきます。フルカラーの縦スクロール作品に manga と付けると、 読者の期待と中身がずれます。様式ではなく出自だけを言いたいなら、Japanese comic のほうが誤解 がありません。
漫画・만화・漫畫は同じ二字
マンファ(만화)もマンホア(漫畫)も、漫画と 同じ二字を韓国語読み・中国語読みしたものです。一つの語を三通りに読んでいるだけなので、語の 意味を掘っても3者は区別できません。英語圏ではこの3語が出版の伝統を指す略号として固定され ました。
- manga — 日本、モノクロ、右から左、雑誌連載から単行本へ。
- manhwa — 韓国、フルカラー、左から右、多くは縦スクロールの ウェブトゥーン。
- manhua — 中国、フルカラー、左から右、アプリ先行。
なお韓国の読者が日本の作品を指すときは만화(マンファ)と普通に呼びます。「manhwa=韓国の 作品だけ」という切り分けも、英語圏が後から付け足したものです。
右から左は、後から反転できない
ページは右上で始まり左下で終わります。コマも、コマの中の吹き出し もその順で、本は英語の読者から見れば後ろから開きます。1990年代末まで英語版は左右反転されて いましたが、出版社がやめたのは絵が壊れるからです。剣士が左利きになり、看板の文字が裏返り、 手描きの効果音が逆向きに寝ました。
自分で描く人にとっての教訓は1つで、ネームに入る前に読み方向を決めることです。読み方向は すべてのコマに焼き込まれています——人物がどちらを向くか、拳がどちらへ飛ぶか、新しい人物が どちら側から入るか。後から反転はできません。
モノクロは経済的な判断
週刊の1話は18〜20ページ前後を、作家1人と少人数のアシスタントで1週間に作ります。その速度で フルカラーは不可能なので、代わりに灰色の技術体系が育ちました——質感と調子のための スクリーントーン、奥行きのための線の強弱、 動きのための集中線と流線。マンファがフルカラーでいられるのは、 ウェブトゥーンのスタジオが線画・彩色・背景を別々の人に割り、週に20ページではなく1話を出す からです。制作体制の違いであって、技術の優劣ではありません。
雑誌が先、単行本が後
作品は週刊・月刊の雑誌に載り、後から単行本にまとめられます。雑誌はアンケートという調査装置 でもあり、読者の反応が連載の継続を決めます。各話が規律正しくヒキで終わるのは作風の癖では なく、生き残り方だからです。この構造は英語圏の読者にはほとんど見えていないので、「なぜ どの話も中途半端なところで終わるのか」という疑問として出てきます。
少年・少女は読者層であってジャンルではない
少年・少女・青年・ 女性は、掲載誌が誰に向けて作られたかを示す区分です。日本語話者には 当たり前ですが、英語圏ではこの4語がジャンル名として流通しています。shonen が「バトルもの」、 josei が「大人の恋愛もの」を意味する語として使われる、という状態です。海外向けの説明や 英語のタグ付けでこの4語を使うときは、相手が受け取るのは掲載誌ではなくジャンル期待のほう だと思っておくと齟齬が減ります。
関連用語
- マンファ — マンファ(manhwa)は韓国語でコミック全般を指す語ですが、日本や英語圏では韓国の作品、とくにフルカラーで縦スクロールのウェブトゥーンを指して使われます。漫画とは色、読み方向、連載単位が違います。
- マンホア(中国漫画) — マンホア(manhua)は中国語でコミックを指す語で、日本や英語圏では中国本土・香港・台湾の作品を指します。現在流通しているものの多くはフルカラー、左から右、アプリ上の縦スクロール連載です。
- 四コマ漫画 — 四コマ漫画とは、ほぼ同じ大きさの四つのコマを縦一列に積み、上から下へ読ませる形式です。四つの拍は起承転結に対応し、対立の解決ではなく読者の見え方が切り替わることで落ちがつきます。
- スクリーントーン — スクリーントーンとは、白黒原稿に貼って中間調を作るための、網点・線・グラデーションが印刷済みのシートのことです。元はカッターで切って貼り込む粘着フィルムでしたが、現在はほぼデジタルのトーンレイヤーとして扱われます。