下塗り(フラット)
別表記: フラット, flatting, flats, フラッティング, 塗り分け, バケツ塗り
下塗りは、コマの中の各領域をムラのないベタ一色で塗り分ける着色工程です。影も光も付けません。こうしておくと後の仕上げで、どの領域も自動選択のワンクリックで正確に選べるようになります。
下塗りは「色」ではなく「選択範囲」
下塗りは彩色の第一段階ではありません。色の形をした選択ツールです。袖、髪、壁——区別される 領域ごとに、境界の硬い、完全不透明な面を1つ割り当てます。これが揃った瞬間から、仕上げの担当 は任意の領域を自動選択でクリックするだけで、以降その本の最後まで正確な選択範囲を手に入れら れます。
下塗りの色が毒々しいことが多いのはこのためです。隣り合う領域を絶対に取り違えないよう、わざと 互いに最も遠い色で塗り分け、後からレイヤーごと一括で色を置き換えるやり方をするスタジオも あります。
日本語では「ベタ」という語がモノクロ原稿の黒のベタ塗りを指すので、彩色工程を指すときは下塗り、 塗り分け、あるいはそのままフラットと呼ぶほうが誤解がありません。
譲れない条件が2つあります。
- アンチエイリアスを切る。 境界がぼけていると自動選択が漏れるか、縁に半透明の輪が残ります。 硬いブラシとアンチエイリアスなしのツールで塗ります。
- 隙間を作らない。 絵の下のすべてのピクセルが、ちょうど1つの領域に属している状態にします。 領域と領域の間に1ピクセルの未塗りがあれば、そこから必ず漏れます。
なぜ工程を分けるのか
下塗りは時間がかかり、完全に機械的で、色彩の判断を一切必要としません。仕上げは速く、創造的で、 経験のある目を要求します。分けておけば、高い人材が3時間かけて髪を投げ縄で囲むことはなくなり、 しかも下塗りは仕上げの結果を必要としないので、前のページを仕上げている裏で複数ページを並行して 下塗りできます。
業界への入口としても実在します。下塗りは最初にもらえる有償の仕事になりやすく、 ペン入れがどう組まれているかを大量に学べます。どの輪郭が閉じそこねて いるかを、1本ずつ見ることになるからです。
速くやる手順
- 先に線を閉じる。 隙間を塞ぐのはペン入れ側の責任です。穴があるなら、線画を直接編集せず その上の別レイヤーで塞ぎます。
- 線画の下のレイヤーで作業する。 インクが常に一番上に乗っている状態を保ちます。
- 投げ縄で囲ってから塗る。 髪や複雑な形は、自動選択を追いかけるより多角形選択のほうが 速い。選択の中を塗って、境界は最後に一度だけ整えます。
- 塗りを線画の下に1〜2px広げる。 境界ちょうどで止めると、後で線を細らせたり画像を拡大 したときに白いフチが出ます。
- 一番広い面は最後に。 残り全部を塗り潰せば終わります。背景はたいてい「残り」です。
省いていい場合
1人で描いていて、柔らかい厚塗りで、はっきりした領域の境界がない作品なら、下塗りはあまり 得をしません。効くのはチームがいるとき、同じキャラが固定配色で大量のコマ に出るとき、そして長期のカラー作品のとき——毎週更新のウェブトゥーン連載は、下塗りという工程が まさにそのために生まれた条件です。
関連用語
- ペン入れ — ペン入れは、下描きを消えない黒い線で引き直す工程です。どの輪郭を線にするか、線をどれだけ太くするか、どこをベタで潰すかを決めるのがペン入れで、ページの奥行きとコントラストはここで決まります。
- 線の強弱 — 線の強弱は、1枚の絵の中で線の太さを意図的に変えることです。太い線は手前に出て影や重さとして読まれ、細い線は奥へ引いて光や繊細さとして読まれます。色も影もない線画が奥行きを持つのはこの仕組みによります。
- コマ — コマとは、物語の一瞬を切り取った枠付きの一画のことです。枠が「その瞬間はここで終わる」と示し、コマの面積が読者の滞在時間を決め、コマの並びがそのまま時間の流れになります。
- スクリーントーン — スクリーントーンとは、白黒原稿に貼って中間調を作るための、網点・線・グラデーションが印刷済みのシートのことです。元はカッターで切って貼り込む粘着フィルムでしたが、現在はほぼデジタルのトーンレイヤーとして扱われます。