ペン入れ
別表記: inking, インキング, 線画, ペン入れ作業, 主線
ペン入れは、下描きを消えない黒い線で引き直す工程です。どの輪郭を線にするか、線をどれだけ太くするか、どこをベタで潰すかを決めるのがペン入れで、ページの奥行きとコントラストはここで決まります。
なぞる作業ではない
この仕事について最も古くからある誤解は、ペン入れは下描きに従う作業だというものです。違います。 下描きはコマに何があるかを記述し、ペンは読者が最初に何を見るかを決めます。同じ下描きを 2人がペン入れすれば2つの違うマンガになり、その差は丁寧さではありません。
下描きに書かれておらず、ペン入れが引き受ける判断が4つあります。
- そもそもどの輪郭に線を引くか。 影の境目、布の折り、材質の変わり目——それぞれ線にも、 トーンにも、何もなしにもできます。全部に線を引いたページは均一に賑やかで、つまり焦点が ありません。
- 線の強弱。 外側の輪郭、影の側、手前にあるものを太く。
- ベタの置き方。 黒く潰す面をどこに置き、ページ全体で釣り合っているか。ムードに最も 効くレバーであり、最も省略されがちな判断でもあります。
- テクスチャ。 カケアミ、ハッチング、ホワイトの散らし、かすれ——色なしで、レンガか絹か 肌かを読ませる部分です。
ベタの置き方を具体的に
完成したページを、細部が消えるまで目を細めて見ます。黒い塊の配置が、コマを縦断して視線を 導いているのが見えるはずです。細めた視界が一様な灰色なら、そのページには構造がありません。 その上からスクリーントーンを貼っても、埋めるだけです。
実務的な習慣。どのコマにも黒のアンカーを最低1つ置く。黒を1か所に 固めず分散させる。そして黒は主役の figure の上ではなく後ろに置いて、人物が暗い中で 明るく読まれるようにする。
道具と、その道具が本当に得意なこと
- つけペン(Gペン・丸ペン) — 筆圧で1ストロークの中に大きな太さの幅が出ます。マンガの 標準。人物はGペン、細部と背景は丸ペン。
- 筆・筆ペン — 幅が最も広く、抜きが最も有機的。布、髪、動いて見えてほしいものに。
- ミリペン・製図ペン — 太さが完全に均一。機械、建築、コマ枠には正しく、顔に使うと死にます。
- デジタル — 同じブラシの模倣に加えて、本物の利点が1つ。手ブレ補正と、下描きを保ったまま 別レイヤーでペンを入れられることです。
デジタル特有の落とし穴
線画は画面解像度ではなく600〜1200dpiのモノクロ2階調かグレースケールで。後から拡大した線は ぼやけますし、ぼやけた線は印刷の網点と喧嘩します。
そして形を閉じること。後で色を塗る輪郭に隙間があってはいけません。 下塗りは塗り漏れのない選択範囲に依存しているからです。髪1ページ分の 1ピクセルの穴を探して午後を溶かすのは本当に虚しい作業で、しかもペン入れの段階で完全に予防 できます。
関連用語
- 線の強弱 — 線の強弱は、1枚の絵の中で線の太さを意図的に変えることです。太い線は手前に出て影や重さとして読まれ、細い線は奥へ引いて光や繊細さとして読まれます。色も影もない線画が奥行きを持つのはこの仕組みによります。
- スクリーントーン — スクリーントーンとは、白黒原稿に貼って中間調を作るための、網点・線・グラデーションが印刷済みのシートのことです。元はカッターで切って貼り込む粘着フィルムでしたが、現在はほぼデジタルのトーンレイヤーとして扱われます。
- 下塗り(フラット) — 下塗りは、コマの中の各領域をムラのないベタ一色で塗り分ける着色工程です。影も光も付けません。こうしておくと後の仕上げで、どの領域も自動選択のワンクリックで正確に選べるようになります。
- コマ — コマとは、物語の一瞬を切り取った枠付きの一画のことです。枠が「その瞬間はここで終わる」と示し、コマの面積が読者の滞在時間を決め、コマの並びがそのまま時間の流れになります。