コマ間の転換

別表記: パネルトランジション, コマの移行, コマからコマへ, panel transition

コマ間の転換とは、あるコマから次のコマへ渡るときに時間・空間・被写体がどれだけ動くかという関係のことです。スコット・マクラウドは瞬間・動作・主体・場面・側面・無関係の六種に分類しました。

六つの型と、それぞれの代償

『マンガ学』でマクラウドが示した分類は、理論としてよりも診断ツールとして役に立ちます。 描き上がった一話の転換を数えてみると、問題のほうから名乗り出てくるからです。

  1. 瞬間から瞬間へ — 動くのは一瞬の何分の一か。目が開く。コストは高い。 コマを大量に使って物語はほとんど進みません。ただし時間を這わせる 手段はこれしかない。
  2. 動作から動作へ — 同じ被写体の、はっきり一段階あとの姿。バトルはほぼこれで回ります。
  3. 主体から主体へ — 同じ場面の中で人物を切り替える。会話の大半。先に 状況説明のコマが入っていないと、読者は位置関係を失います。
  4. 場面から場面へ — 時間や場所が大きく跳ぶ。話を安く進められる反面、跳んだ先で毎回 位置関係を張り直す必要があります。
  5. 側面から側面へ — 時間はほぼ止まり、視線だけが場や気分の中をさまよう。窓の雨、やかん、手。 何も進めずに空気だけを積む型です。
  6. 無関係 — 論理的なつながりがない。実験作以外ではまず使われず、たいていは効果ではなく ミスとして読まれます。

伝統ごとに配合が違う

マクラウド自身の集計が分かりやすい。アメリカン・コミックスは「動作から動作へ」と 「主体から主体へ」で大半を占め、「側面から側面へ」はほとんど出てきません。日本のマンガは この型を常用します。静かな路地、蝉、足元──同じページ数でもマンガのほうが遅く、 空気が濃く感じられる理由の大きな部分がここにあります。

どちらが正しいという話ではありません。ただ、一話が「慌ただしくて筋しかない」と感じるときは、 たいてい九割が動作から動作への転換になっています。感情の山場の直前に側面から側面へのコマを 二つ足すほうが、セリフを書き直すより効きます。

作業中の使い方

  • テンポが速すぎる → 場面から場面への跳躍が多すぎる。動作から動作へで落とす。
  • 何も起きていない → 側面から側面へが多すぎる。半分削る。
  • バトルが分からない → 動作から動作へで足りる場面に瞬間から瞬間へを使っている。動きは 間白に任せる。全段階を描くと、明快になるどころか遅くなります。
  • 誰がどこにいるか分からない → 主体から主体への連続で、張り直しを省いている。

縦スクロールでは重みが変わる

縦スクロールでは読者が一度に見るのは1コマです。紙のページ上では 瞑想的に働く「側面から側面へ」の連続が、スマホでは足踏みに読まれることがあります。逆に 「場面から場面へ」は安く綺麗に決まります。長い空白が、かつてページめくりがやっていた仕事を そのまま引き受けるからです。

関連用語

  • 間白(ガター) — 間白は、コマとコマの間の空白です。読者はその空白で2つの絵の間に何が起きたかを補完するため、間白の広さがそのまま飛ばした時間の量と、一拍をどれだけ持たせるかを決めます。
  • コマ — コマとは、物語の一瞬を切り取った枠付きの一画のことです。枠が「その瞬間はここで終わる」と示し、コマの面積が読者の滞在時間を決め、コマの並びがそのまま時間の流れになります。
  • エスタブリッシングショット — エスタブリッシングショットは、場面の場所と人物の配置を示す引きのコマです。寄りに入る前にこれを置かないと、読者は続く寄りのコマを一つの空間に並べられなくなります。
  • 縦スクロール — 縦スクロールとは、ページをめくらずにスマートフォンを下へスクロールして読む、一本の縦長の連続した紙面として組まれた形式です。ウェブトゥーンの標準形で、コマとコマのあいだの空白がテンポを決めます。

実際に使う