エスタブリッシングショット
別表記: establishing shot, 引きのコマ, ロングショット, 状況説明カット, 説明カット
エスタブリッシングショットは、場面の場所と人物の配置を示す引きのコマです。寄りに入る前にこれを置かないと、読者は続く寄りのコマを一つの空間に並べられなくなります。
無いと何が壊れるのか
読者は最初の引きの絵から場面の地図を作り、その後の寄りの連続をその地図に当てはめて読みます。 引きを飛ばすと地図がないので、寄りのコマは全部宙に浮きます。症状ははっきりしています。
- 2人の距離が分からないので、急に掴みかかる動きや大声のセリフが場違いに見える。
- 途中から入ってくる人物が瞬間移動して見える。扉が存在しなかったからです。
- アクションが読めなくなる。コマ外から出た拳は、どこからともなく現れたものとして読まれます。
初めて描くマンガで最も多い構造的欠陥で、しかも描いた本人には見えません。本人の頭の中には 部屋があるからです。
一度置いて、その後は割る
基本形は、空間と全員の位置を見せる引きのコマを1つ置き、その後の寄り を読者にそこへ当てはめさせる、という流れです。地図ができてしまえば10コマ寄り続けても持ち ます。できないのは、寄りから始めて地図が自然にできるのを期待することです。
次の場合は置き直します。
- ページをめくったとき(同じ場面が続いていても)。めくりで注意はリセットされます。
- 顔だけのコマが8つほど続いたとき。
- 誰かが動いたとき — 座る、部屋を横切る、武器を抜く。
- 人が増えたり減ったりしたとき。 人数の変化は読者が最も見失う情報です。
引きだけが方法ではない
エスタブリッシングショットは風景画である必要はありません。どこかと誰がどこにいるかに 答えられればいい。あるキャラの肩越しのローアングルで、他の3人と窓が入っていれば役目は果たし ますし、部屋の隅から真っ平らに描いた絵よりはるかに面白い。曖昧でなければディテールでも成立 します。地下鉄の手すりとその奥の足だけで、車両を丸ごと描くより速く電車だと分かります。
エスタブリッシングショットを毎回大ゴマにするのは避けてください。 その場所自体が主題でない限り、部屋に1ページ使う価値が5コマ分の物語を上回ることはまれです。
イマジナリーライン
空間を提示したら、2人を結ぶ想像上の線のどちら側にカメラを置くかを固定します。越えると画面上 の左右が入れ替わり、2人が立ち位置を交換したように読まれます。どうしても越えるなら、幾何が 見える引きのコマの中で越えてください。エスタブリッシングショットが静かに担っているもう1つの 仕事がこれです。
縦スクロールでは
縦スクロールは状況提示を難しくします。読者はおおむね一度に 1コマしか見ず、レイアウト全体を保持できないからです。定石は、新しい場面の先頭に画面幅いっぱい の、縦より横が長いコマを置き(そうしないとビューポートで切れます)、その直後に最初の寄りを 続けること。紙より高い頻度で置き直してください。読者はスクロールしており、スクロールは めくりよりも速く地図の記憶を消します。
関連用語
- コマ — コマとは、物語の一瞬を切り取った枠付きの一画のことです。枠が「その瞬間はここで終わる」と示し、コマの面積が読者の滞在時間を決め、コマの並びがそのまま時間の流れになります。
- コマ間の転換 — コマ間の転換とは、あるコマから次のコマへ渡るときに時間・空間・被写体がどれだけ動くかという関係のことです。スコット・マクラウドは瞬間・動作・主体・場面・側面・無関係の六種に分類しました。
- 扉絵・見開き — 1ページ全体を一コマで使う見せ方のことです。一つの瞬間にページを丸ごと払うため、話の扉、初登場、場面で最も大きいビート──つまり読者の足を止めたい箇所にだけ使われます。二ページに広げたものが見開きです。
- 絵コンテ — 絵コンテとは、仕上げ作画に入る前にショット・演出・尺をラフな絵で設計する工程です。もとは映像の用語で、一枚が一カットにあたります。マンガで同じ役割を担うのはネームで、単位はカットではなくページになります。