効果音(描き文字)
別表記: 描き文字, 書き文字, 擬音, SFX, sound effects
効果音とは、吹き出しの外に置かれる音の文字表現と、それを作る制作工程を指す言葉です。マンガでは作画と同時にペンで描き込まれるため描き文字と呼ばれ、写植で組まれるセリフとは扱いが根本的に違います。
擬音語は言語の話、描き文字は工程の話
擬音語・擬態語は言語のカテゴリで、音や様態を写した語のことです。 描き文字は、完成した誌面に現れる物体と、その責任者のことです。この区別は言葉遊びではなく、 実際の分業に対応しています。書き手は脚本に「効果音:ガラスが割れる」と 書く。語を決め、書体か筆致を決め、大きさと、枠をまたぐかどうかを決めるのは作画者か写植の担当者。 別の人間の、別の判断です。そして言語の話なのは片方だけ。
擬音語でない描き文字は山ほどあります。動作を説明する「バタン」も、空白を埋める様式化された 「シーン」も描き文字です。逆に、擬音語が描き文字にならないこともある。登場人物が普通の 吹き出しの中で「ドンって音がした」と言う場合がそれです。
描き文字は絵であり、だから高くつく
欧米のコミックスでは、効果音は表示用書体で組まれ、完成した絵の上に別レイヤーとして載ることが 多い。マンガでは逆に、コマと同時にインクで描かれ、線に食い込み、ベタから白抜きされ、手前を 通る人物に分断されます。統合されていること自体が狙いです。音が画面の上に貼られているのではなく、 場の中で鳴っているように感じられる。同時にそれは、後から直しにくいという意味でもあります。
段取りとして見込んでおくべきこと:
- レイアウトの段階で場所を空ける。 絵が仕上がってから隅に押し込んだ効果音は、必ず 後付けに見えます。ネームの時点で当たりを取ること。
- 可能ならレイヤーを分ける。 画的な理由ではなく、次の節の理由で。
- コマの読み順の中で読む。 先に鳴るべき音を吹き出しの後ろに置くと、原因と結果が反転します。
翻訳版での描き直し・オーバーレイ・注記
区別が効いてくるのはここです。翻訳版には三つの選択肢しかありません。
- 描き直し。 元の描き文字を消し、下の絵を復元し、同じ筆致で訳語を入れる。品質は最高、 手間も最大で、丁寧なローカライズ版の価格の理由になっています。
- オーバーレイ。 元を残したまま訳語を上か横に置く。安く速く、デジタル同時配信で標準的。 画面は散らかります。
- 注記(グロス)。 元は一切触らず、小さく訳を添える。絵は守れるが読者に負担を求める。 有志翻訳や、作法を知っている読者向けの版でよく使われます。
つまりこれは編集判断の顔をした予算判断です。どれを採ったかを見れば、その版にいくらかけたかが だいたい分かります。
AI生成のページでも同じ原則が逆向きに効きます。画像の中に焼き込まれた文字は後から直せないので、 描き文字は画像モデルに書かせるものではなく、合成で載せるレイヤーとして扱ってください。
関連用語
- オノマトペ(擬音語・擬態語) — オノマトペは音や状態を音声で写し取る言葉です。日本語は実際の音を表す擬音語に加え、音のしない状態や質感を表す擬態語を持ち、しーんのように無音までも書けます。この層が英語には存在しません。
- 吹き出し — 吹き出しとは、コマの中で人物が声に出したセリフを収める枠のことです。話者を指すしっぽが付き、読者はコマの読み順どおりに吹き出しを拾うため、置き場所がそのまま「誰が先に聞こえるか」を決めます。
- ペン入れ — ペン入れは、下描きを消えない黒い線で引き直す工程です。どの輪郭を線にするか、線をどれだけ太くするか、どこをベタで潰すかを決めるのがペン入れで、ページの奥行きとコントラストはここで決まります。
- コマ — コマとは、物語の一瞬を切り取った枠付きの一画のことです。枠が「その瞬間はここで終わる」と示し、コマの面積が読者の滞在時間を決め、コマの並びがそのまま時間の流れになります。